Software Transactional Memo

STM関係のことをメモっていこうと思います。

ファントム、あるいは忖度

TL; DR; 「神輿は軽くてバカがいい」というのは文字面以上に誠実な上司と社員の信頼関係

 

大きい企業ではとにかく会議が多い。僕の務めている部署では意図して会議を減らしているのでかなりマシな部類ではあるものの、その減っている会議の中でもときおり大きい組織らしい側面がひょっこり顔を出す。

それは、僕が普段から「ファントム」と呼んでいる現象である。僕の脳内ではFate/Grand Orderに出てくるファントム・オブ・ジ・オペラのイメージでだいたい合っている(画像はゲームから引用)。

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会社は組織として動いているので、例えば「部」のレベルでの意思決定が必要な問題に対し、ヒラ社員が勝手に意思決定をすることは当然できない。
そこで部のレベルの承認を得るための道筋を、一個下の課のレベルで検討をするためヒラ社員と課長で会議する。その中での意思決定は「その場に居ない」部長の意思をみんなで想像しながら行う。そうやってその場に居ない亡霊(ファントム)の考えを本人に訊こうとすらせず勝手に想像し、課としての意思決定を行う。

どこにでもあるような日本企業の風景である。

で、この会議の中で登場するファントムの存在は非常にやっかいである。
例えば課長が実はその話を上の会議に持っていくのを避けたいなと内心思っているが、ヒラ社員と正面から衝突すると自分に理がないという場合、部長のファントムを操作して「部長はこう言うと思うから良くないと思う」と反論を代弁させる。仮にその反論が筋悪だとしても、部長がその筋悪な反論をしないという証拠は容易に出せない為、会議を更にもたつかせる事に成功する。もちろん、そのファントム部長の筋悪な論理に対して適切な反論を行ったところでそのファントムが掻き消えて新たな論理を引っさげた別のファントム部長が登場するだけで致命傷にはならない。
ヒラ社員はそれに対して「いや、部長はこう言うんじゃないか」という別のファントム部長を出して反論をする手もあるが職位が遠い程そのファントムには説得力が無くなる。

これはもちろん部長と課長の間の話ではなく、もっと上の役員クラスや更には「おきゃくさま」という決まった形のない存在まで登場させて日本の企業の中では常にそこら中で発生している現象である。そうやっていい年した大人がファントムを召喚して使役して戦わせるゲーム(聖杯戦争?)に興じているから会議が終わらない。

大企業ほど組織構造が深くなるので当然呼び出されるファントムの種類や強さも様々になるし、子会社や事業会社など組織の境界線を跨いで実に多種多様なファントムが召喚されて日夜しのぎを削っている。

 

ファントムの戦闘力(大抵の場合それは防御力)は大まかにその元となった人物の態度の曖昧さがそのまま反映される。行動に対して解釈や予測の余地が大きければ大きいほど、恣意的にその言動を操ってその場に召喚する事ができる。つまり、偉い人がいろいろ考えて曖昧な態度を見せる程に、その下のレイヤーの会議は紛糾し時間の浪費が発生する。

逆にいうと曖昧さの少ない上司ほど下のレイヤーの会議が紛糾しにくくなり意思決定の迅速化に貢献する。普段から何らかのポジションを取っている上司はファントムとして召喚しても恣意的に操るのが難しいので会議の時間の短縮に貢献する。

 

ソフトバンクの孫さん等はトップダウンで強烈に組織を動かしているともっぱらの評判だが、おそらくそれは社長の迷い(曖昧さ)が組織の非効率を生み出すという事をよく自覚しているという事の裏返しではないかと思う。僕の務めている会社でもやはり上に立つ人はそれを意識している人が多いように見える。奔放でヤクザっぽい物言いで恐れられている人物であっても、部下からは行動の予測がしやすいため扱いやすい上司として見做されている事は良くある。

「神輿は軽くてバカがいい」という格言は幹部は「ブレが部下に伝わらないようにバカみたいに同じポジショントークを繰り返し」そのお陰で部下は「最小限の労力で幹部の発言を忖度できる」という仕組みがうまく回る限りにおいて極めて健全な組織の形である。

組織をうまく回そうと考えている偉い人は常々「自分は誰かの都合の良いファントムとして知らぬ間に召喚されていないだろうか」と自省すべきだし、部下はより偉い人とより多くのコミュニケーションを取ることによって上司が召喚するよりずっと格の強いファントムを高精度で呼び出せるよう意識すべきだと思う。

 

分散・並列システムでも、性能を出すためにネックになるのはアムダールの法則USLに従い、会議などでの情報交換コストであるが、そういったコーディネーションを可能な限り削減するというのはより良い性能を叩き出すための定石である。

上に長々と書いたファントムの話がいまいちピンとこないベンチャー企業の人は、それは若くて同質な人材が揃っているベンチャー企業ならではの強みであり、巨大資本に対抗するための重要な武器なのでそれを自覚して活かして欲しい。

 

深夜のノリで適当にキーボードを叩いていたら2000文字を超えていたので今日はこのへんで。